そろそろマンションの大規模修繕の時期を迎える方。
既に理事として大規模修繕の準備をしている方。
専門委員として、大規模修繕工事を仕切ろうとしている方。
マンション購入に当たって、将来の大規模修繕について調べようとしている方。
この記事は、そんな何らかの形で大規模修繕工事に関わる人たちに向けて書きました。
具体的には、ぜひ、参考にしてもらいたい資料をご紹介したい、ということです。
それは何かというと、国土交通省が初めて行った大規模修繕工事に関する調査のことです。
この「初めて行った」という点がポイントです。
最近、不適切な設計コンサルタントにより、高い工事費をふっかけられるトラブルが増えているそうです。
その傾向を踏まえて、国土交通省が専門知識がない一般の人向けに、大規模修繕工事の相場感などについてまとめた資料になります。
大変貴重な資料と思いますので、これを活用しない選択肢はない、と言っても過言ではありません。
この調査は、平成29年5月から7月にかけて、全国規模で行われてます。
対象期間は直近3年間、調査対象は設計コンサルタントの実績のある会社134社で、回収したサンプル数は944サンプルです。
データ時点も新しく、かつ、国土交通省が実施している点も信頼できるポイントです。
また、グラフや表などで視覚的にも内容が分かるようにまとめられいます。
そういう意味では専門家ではない一般の方でも分かりやすく作られていますが、1点、気をつけなければいけない所があります。
それをこの後、説明していきたいと思います。
目次
1.国土交通省が初めて調査した「大規模修繕工事費」の調査!を使う時の注意点
国土交通省が初めて調査したマンション大規模修繕工事の調査名は、「マンションの大規模修繕工事に関する実態調査」です。
調査の趣旨は、お抱えの工事業者に談合させて、工事費を釣り上げる悪徳設計コンサルタントによるトラブル増加を受けて、管理組合が参考にできる資料を作成する、というものです。
データも新しく、戸数規模別・工事回数別の調査も行われているので、自分のマンションと同じくらいの規模のデータで比較すると、分かりやすく、とても参考になります。
ですが、気をつけて欲しいことがあります。
簡単に言うと、この資料の金額より、実際の工事費は高く出るはずです。
なぜなら、設計監理料が含まれていないからです。また、耐震改修工事も含まれていません。
なので、この資料の金額よりも工事費が高すぎる、って思った時でも、実は問題ない妥当な工事費水準だった、ということが起こり得ます。
具体的にどういうことなのでしょうか。
2.工事費といっても種類は様々!この調査に含まれないものは何?
実際の工事費とこの調査の金額における違いについては、実は大したことではありません。
(金額的に、ということではなく、作業としてそこまで大変なものではない、ということです。)
実際に大規模修繕工事費として、修繕積立金から支払う金額として、次のものがあります。
・消費税
・設計監理料
・コンサルフィー
・耐震改修工事費
上記の中で、この国交省調査には含まれないものが次の項目です。
・コンサルフィー
・設計監理料
・耐震改修工事費
消費税や耐震改修工事費など、金額が大きいものも、調査の中には含まれていません。
耐震改修工事費は別として、消費税やコンサルフィー、設計監理料などが含まれていない理由として、工事費の何%という形で一定のレンジに収まるからです。
つまり、この調査は工事費を比較検討するためのものなのです。
なので、工事費として支払う総額と調査に記載の金額を比較しても意味がないのです。
3.例えばあなたのマンションだと?
3-1.控除方式
では、実際に自分のマンションに当てはめて、比較検討してみましょう。
そんなに大変なことではありません。
まず、自分たちのマンションの大規模修繕工事費の見積書を用意して下さい。
その最終的な工事費から、調査に含まれないものを抜いていきます。
①消費税を抜く
消費税を抜きましょう。意外と影響が大きいです。
②「工事業者以外に支払うもの」を抜く
「工事業者以外に支払うもの」とは、コンサルフィー、設計監理料のことです。
ここは少し面倒くさいマンションもあるかもしれません。
呼び方が色々あるからです。
ただ、趣旨としては、「工事業者に支払うもの」だけ残して、それ以外は抜く、ということです。
③耐震改修工事費を抜く
1981年より前に建てられたマンションは、いわゆる旧耐震と呼ばれる建物になり、地震に対する強度を強めるために、耐震改修工事が行われる場合があります。
この耐震改修工事費も、国交省の調査には含まれておりません。
また、金額も大きいので、抜いた後の工事費と抜く前の工事費では大きな差があるはずです。
3-2.逆算簡易方式
以上が国交省の調査に合わせて調整する項目ですが、考え方次第で逆のアプローチもあります。
それは実際の工事金額から消費税などを抜いていくのではなく、国交省の調査金額に税率などを掛ける方法です。
これは一項目ずつ抜いていく方法より簡単ですが、若干正確さは劣るかもしれません。
消費税などは税率が決まっていますが、コンサルフィーや設計監理料などは、マンション次第でフィー料率が変わることもあるためです。
ただ、そこまで大きくズレることはないので、時間をかけたくない時は、国交省の調査金額から計算する方法も有用と思われます。
ちなみに、コンサルフィー・設計監理料は合わせて工事費の10%が多いようです。
(もちろん業務内容によりますが、あくまで一般的な水準です。)
計算式は、
で出せます。
4.規模とか設計監理料とか細かいことは気にすんな??
規模戸数別とか、消費税とか、設計監理料とか、そんな細かいことはできない、直接比較しちゃってもいいんじゃないの?
と思われる方もいるかと存じます。
ただ、それはダメなんです。影響は結構大きいのです。
例えば逆からのアプローチから考えてみても、消費税だけでも8%、コンサルフィーで相場の10%ですから(悪徳コンサル・管理会社なんかだと20%とかです。)、少なくとも20%の違いが生じます。
工事費が5,000万円の場合、20%だと1,000万円の誤差です。大きいですよね。
いちいち内容確認するのが面倒くさい方は、逆からアプローチ(国交省の調査金額に税率などを掛ける方法)をしてみてください。正確ではないですが、大きく外すことはありませんので便利だと思います。
決して、そのままの数字で比較しないで下さい。意味がありませんし、判断を誤ることがあるので決してやらないで下さい。
5.国土交通省の初調査は役立くけど、使い方に注意!
「マンションの大規模修繕工事に関する実態調査」は、国交省が初めて行った大規模修繕工事費に関する調査で、一般の管理組合の人たちにとって、とても役立つ貴重なデータです。
せっかくのデータなのですが、使い方に気をつけましょう。
使い方を間違えると比較対象を間違えることになり、役立つデータが一瞬にして、まぎらわしい、意味のないデータになってしまいます。
使い方自体はそんなに難しいことではありません。簡単な方法もあるので、ぜひ、この記事を参考にしてデータを使ってみて下さい。
6.正しく使って適正な大規模修繕工事をしましょう!
「マンションの大規模修繕工事に関する実態調査」は国交省が初めて行った、大規模修繕工事費についての調査です。
この調査の趣旨は悪徳な管理会社やコンサルにだまされないように、マンション住民・管理組合が自分たちでチェックするための材料提供です。
この調査は正しく使えば、非常に役に立つ貴重なデータとなり得ます。
ぜひ、その趣旨の通り、大規模修繕で損をしない、騙されないように、必要最低限の使い方に気をつけましょう。
そして、適正な工事料金で、大規模修繕工事を行いましょう。