「権利金」という言葉を聞いたことがあると思います。
部屋を借りる時とかに、良く使われる言葉です。
「敷金」や「保証金」とは違います。
また、建物の賃貸借と、土地の賃貸借でも、取扱いが異なります。
この記事では、土地の賃貸借における「権利金」について、調べたことをまとめました。
1.権利金と保証金の違い
そもそも、権利金とか保証金とは何でしょうか。
先ほども書いように、賃貸借の時に受け渡しがされるお金です。
ただし、「賃料」とは違います。
「賃料」は、毎月、借りている人(借主)が、貸している人(貸主)に支払うお金です。
何が違うのか。
権利金とか保証金は、グループでまとめると、「一時金」という分類でまとめられます。
「一時金」という通り、毎月、ではなく、あるタイミングで支払れるお金です。
それは、契約した時です。
権利金や保証金といった「一時金」は、契約時に、借主から貸主へ支払れます。
では、権利金と保証金は何が違うのか。
まず、保証金は「預り金的性格」の一時金、と言われます。
預かったものは、いずれ返します。
つまり、「預り金的性格」の一時金(保証金や敷金もそうです。)は、契約時に借主から貸主に支払れますが、契約「終了」時に、借主に返却されるお金です。
では、権利金はどういう一時金でしょうか。
権利金は、「賃料の前払的性格」の一時金と言われます。
保証金と異なり、賃料は貸主が預かっいる訳ではないので、契約終了時でも、借主に返却されません。
つまり、権利金とは、契約時に貸主に対して支払われっぱなし、のお金なのです。
この、借主に対して返却される、されない、が、保証金と権利金の大きな違いとなります。
また、税金がかかる、かからない、で言えば、保証金は収入ではありませんので税金はかかりません。
一方、権利金は「賃料の前払的」な一時金ですので、貸主の収入となります、
したがって、権利金は課税対象となります。
2.借地権の種類により権利金や保証金は変わる
この記事のはじめに、「土地の賃貸借」における権利金のことをまとめる、と書きました。
建物の賃貸借よりも、土地の賃貸借の方が複雑で、かつ、分かりづらいです。
土地の賃貸借の種類には、借地権や賃借権、使用借権などがあります。
ここでは、建物の敷地として使われる「借地権」について、書いていきます。
借地権とは、建物所有を目的として土地を借りた時の権利のことです。
青空駐車場として借りた場合は、借地権とは認められません。
では、なぜ借地権として区別されるのか。
それは、借地権は法律によって強く保護されるからです。
具体的には、借主(専門用語で「借地権者」といいます。)に対して、法律の手厚い保護があると思って下さい。
法律とは、借地借家法のことです。
注意ですが、借地借家法の前の法律である借地法も含まれます。(「旧法」と言われます。これに対して、借地借家法のことを「新法」ということもあります。)
借地権にも様々な種類があります。
旧法借地権、新法普通借地権、事業用定期借地権、一般定期借地権………などです。
それぞれ、契約年数や契約内容などが異なりますが、無理矢理一言で分けてみると、
で大きく2グループに分類することができます。
定期借地権などの内容は、詳細は別の記事を見て頂きたいので、ここでは、
貸した土地が戻る借地権
と
貸した土地が戻らない借地権
の2つがあるんだ、とくらいに思っておいて下さい。
ここで、権利金と保証金の違いについて、思い出して下さい。
この二つの一時金の違いは、
でしたね。
これを、2つの借地権のパターンと組み合わせてみて下さい。
貸した土地が戻ってこない、ということは、契約が終わらない、ということでもあります。
特に旧法借地権の場合、契約を終わらせるためには様々な条件や立退料が必要となり、契約を終わらせることが難しいのが実態です。
(そのため、貸した土地が戻ってこない、と言われます。)
ここで一時金を思い出して下さい。
二種類の一時金の大きな違いは、契約終了時に返却されるか、されないか、です。
つまり、貸した土地が戻ってこない借地契約の場合に、契約終了時に返却される一時金の授受が行われた場合、その一時金は半永久的に返却されないことになります。
つまり、貸した土地が戻ってくる借地権の場合、契約終了時に返却される一時金(保証金、敷金)が授受されることは少ない、と考えられます。
また、反対のことを言えば、貸した土地が戻ってくる借地権の場合、契約終了時に返却される一時金(保証金、敷金)が授受されることが多い、と考えられます。
(何故なら、税金がかからないからです。契約終了時に返却されない一時金(権利金)の場合は、税金がかかります。)
以上のことをまとめますと、
土地が戻ってない借地権(旧法借地権、新法普通借地権)の場合、権利金が授受されることが多いです。
土地が戻ってくる借地権(定期借地権)の場合、保証金が授受されることが多いです。
また、旧法借地権や新法普通借地権のように、土地が戻ってこない場合は、権利金が授受されることが多いですが、この場合の権利金は、借地権の「価格」としても捉えることができます。
(なぜなら、半永久的に戻ってこないなら、それは実質的に売買と同じ、とも考えられるからです。)
次は、「権利金の性格」について、書いていきます。
3.権利金の性格
前の方で、
権利金は、
「賃料の前払的」な性格
がある、と書きました。
権利金の性格としては、それだけではありません。
少し前に書いた、
「借地権の価格」
としての性格も持っています。
この「借地権の価格」として、という表現は、専門用語で表現すると、
「借地権設定の対価」
という表現になります。
「設定」というのは、要は「貸した」ということです。(地主のことを、「借地権設定者」と言います。借りた人は「借地権者」です。)
「対価」とは、見返り、とか、報酬、という意味です。
つまり、土地を貸してあげた見返りとして、「借地権の価格」である権利金を、借主からもらう訳です。
貸した場合にもらうのは、「賃料」ですが、この場合は借地権の「価格」と考えられています。
その理由は、先ほども書いたように、土地が半永久的に戻ってこないから、貸す、というよりも、売った、という方がしっくりくるからです。
でも、あくまで「借地権」です。
完全に売ったわけではない。
となると、何が起きるか。
稀に、貸主に土地が戻ってくることがあります。
一般的に、貸した土地が戻らない借地権、と言われている旧法借地権や新法普通借地権において、土地が戻る場合とはどんな時か。
このような借地権が「半永久的」と言われる理由は、契約期間が半永久的に「更新」されてしまうからです。
いろいろと細かい条件がありますが、法律によって借主は強く保護された結果、貸主からは「更新」を拒否できないことになっています。
それでも「更新」を断りたい場合はどうするか。
(専門用語で「更新拒絶」と言います。)
無理矢理簡単に言えば、
法律的には、以下の2つが必要だ、とされています。
①更新を断るだけの、しっかりとした理由
(専門用語で「正当事由」と言います。)
②お金
(専門用語では「立退料」と言われます。)
ここで、難しいのは「お金」です。
「正当事由」については、法律上、大体このようなこと、というのが決まっているので分かりやすいのですが、「立退料」って一体いくら?という話になるわけです。
この「立退料」については、様々な考え方があり、揉めるところなのですが、無理矢理、理解するために一言で言えば、
買った土地を返せ、って言うのなら、払ったお金を返してよ
ということです。
つまり、半永久的に戻ってこない借地権だから、実質的に買ったものだとして、「借地権の価格」相当の権利金を、借主は地主に払います。
でも、地主に対して返却することになると、権利金は払い過ぎ、だと思いませんか。
「立退料」は、
前に書いた「正当事由」を色々考えて、
権利金の「払い過ぎた」部分だ
と考えると分かりやすくなると思います。
(実際には様々な考え方があるので注意しましょう。)
ちなみに、権利金にはもう一つ、
「賃料の前払的」性格
がありますね。
だとすると、契約が途中で終わった場合は、払いすぎた前払部分は返却しなければならない、と考えられます。
前に、権利金は借主に返却されない、と書きましたが、その例外になります。
(権利金が返却されないのは、あくまで、貸した土地が戻ってこないことが前提となっているからです。)
4.一時金(権利金と保証金)の税務上の取り扱いは?
「税務上の取り扱い」とは、要は、どうやって税金を払うか、ということです。
前にも書きましたが、
権利金は課税されれ
保証金は課税されない
ということです。
まず、権利金から見ていきます。
課税のされ方は、権利金であれば一律、ではありません。
総合課税と分離課税に分かれます。
総合課税と分離課税とは?
となると思いますが、ここでは理解を早めるために、無理矢理簡単に説明します。
総合課税とは、所得が低い人にとってメリットがある方法です。
分離課税とは、高所得にメリットがある方法です。
なぜなら、日本は所得が多い人ほど、所得税が大きくなる国だからです。
つまり、
総合課税では、権利金が所得とみなされます。
分離課税では、権利金は所得とは別に処理されます。
権利金の課税の取り扱いのポイントは、この1点です。
権利金の金額の大きさによって、所得が増えるか・増えないかが変わります。
その基準となるのが、土地の価格です。
土地の価格の1/2以上の権利金が授受された場合は、土地の売却とみなされ、他の不動産売買と同じように分離課税となります。
つまり、権利金収入は、所得とは別に課税の対象になります。
土地の価格の1/2未満の権利金が授受された場合は、あくまでも土地の賃貸とみなされ、不動産賃貸収入と同じように総合課税となります。
つまり、この場合の権利金収入は、所得に合算されます。
それでは、保証金の場合はどうでしょうか。
保証金は、前にも書いたように、非課税となります。
ただし、保証金に関係するものの中には課税されるものがあります。
利息相当分です。(運用益、と言います。)
保証金は、賃貸開始時に借主から預かって、賃貸終了時に返します。
そして、保証金自体には利息がつかないので、預かった金額をそのまま、借主に返却することがほとんどです。
(契約で違った取り決めがされていることもあります。)
ただ、預かっている保証金は、全くお金を生まないのでしょうか。
単純に、この保証金全額を銀行に預けていると考えて下さい。
銀行では利息が発生します。
この利息相当分は、保証金を運用した収入、として課税対象になります。
その他にも、あまりにも保証金が高額な場合は、「経済的利益」というものを算出して、先ほどの権利金と合算して、総合課税か分離課税かを判断するようになります。
(「経済的利益」とは、保証金の運用益のことです。「経済的利益 = 保証金の額 - (保証金の額 × 基準年利率による複利現価率)」という数式で求められます。)
5.権利金の認定課税とは?
「権利金の認定課税」という専門用語があります。
これはどういうことでしょうか。
この場合の「認定」の意味合いとしては、「あるものとみなして」という意味が近いと思います。
想像してもらいたのは、地主に土地が戻ってこない借地権の場合(旧法借地権、新法普通借地権)、権利金を授受するのが普通なのに、あえて授受されなかった場合です。
そんな場合、本来、課税される権利金がないのですから、税金は発生しない・・・・・・とはならないのです。
このような場合には、権利金が授受されたものと「みなして」、つまり「認定」して、課税されてしまいます。
(地主や借主が個人や法人かで異なり、計算方法なども色々ありますので、詳しい税金算出方法は、ここでは書きません。)
ただし、権利金が授受されていなくても、認定課税されない例外があります。
一つは、権利金の代わりとなるくらい高い賃料(地代)を払っている場合です。(つまり、権利金を払わないことで、別に得をしていない場合、ということです。)
この賃料の水準は専門用語で「相当の地代」といいますが、イメージとしては、1年間の賃料合計が、その土地価格の6%程度である場合のことを言います。
もう一つは、要は「売買とは違います」ということを証明することです。
つまり、地主に土地が戻ってこない借地権を、権利金も払わずに手に入れた場合、「無料」で土地を手に入れたことになります。
だから、税務署は、そういうお得すぎる話には税金をかけようとするのです。
ですから、そういうことではない、ということを証明すれば、税務署も許してくれます。
そういうこと、とは、無料で土地を手に入れたわけではない、具体的には将来しっかり土地はお返しします、ということを届け出ます。
(この届出書は「土地の無償返還に関する届出書」と言います。)
また、定期借地権の場合はどうでしょうか。
ここまで読んで頂いた方は、もうお分かりかもしれませんが、定期借地権には「認定課税」そのものの適用がありません。
なぜかといえば、定期借地権は、地主に土地が戻ってくる借地権です。
ですから、契約終了しても借主に返却されない権利金ではなく、借主に戻ってくる保証金が授受されることが多いのです。
つまり、権利金の授受慣行がない、と考えられるのです。
そのため、定期借地権には「認定課税」そのものが適用されない、と考えられています。
6.権利金の償却とは?前払地代?
「償却」という専門用語があります。
これは、無理矢理一言で言えば、
払ったり、もらったりしたお金を、バランスよく何年かに分けること
です。
これをすることによって、収入や費用が毎年安定します。
逆に、お金が大きいものに対して、「償却」ができない場合、ある1年だけ収入が大きすぎたり、費用が大きすぎたりしてしまい、バランスが悪くなってしまいます。
(1発屋のお笑い芸人をイメージすれば、何となく分かると思います。稼ぎすぎた次の年、仕事がなくなったら、住民税の支払いとかきつそうですよね。)
では、権利金です。
権利金は契約時に、結構大きい金額が借主から地主に支払われます。
でも、権利金は償却できません。
支払った方としては、契約期間満了時に全額を費用とすることになっています。
費用とすれば、利益(所得)が減る。つまり、税金を減らすことができるのですが、契約期間満了時まで費用にできないのであれば、実質、税金は減らせないことになります。
(なぜなら、権利金が授受されるのは、地主に土地が戻ってこない借地権の場合だからです。)
また、もらった方としても、結構大きい金額が、その年の収入となってしまうことで、税金の金額が大きくなってしまうことがあります。
不便だな、と思われていましたが、平成17年度の税制改正で変わりました。
どう変わったかと言うと、いわゆる「償却」のようなことができるようになったのです。
契約書で権利金のことを「地代の前払い」と明記することで、契約期間中にバランスよく、収入、もしくは費用として計上することができるようになりました。
権利金をもらう地主にとっては、毎年の地代分として課税されることには変わりませんが、一度に大きな課税金額となる権利金と比べると、少しずつ課税される、ということで、課税上のメリットは大きいものとなっています。